家族-きずな-大森家の場合

来ました2日連続。綾葉ファンには残念なことに今回は番外編。
綾葉のいない所で動かせる女性その1が登場です。




俺の名前は空沢光司。
そこそこの学校に通うごく普通の高校2年生だ。
普段は可愛い恋人―――夜舞月綾羽と一緒に帰るのだが、
あいにく今日は用事があるらしいので俺は一人寂しく帰路に着こうとしていた。


「光司、今日ヒマか?ヒマだよな?いつもなら飛び出してくもんな?」
いそいそと帰る支度をしていた俺にしつこく話しかけてきたのは俺の友人―――大森透。
「ああ、今日はな」
「じゃあ、一緒に家に来てくれ。頼む」
手を合わせて頭を下げる透。
「何だ、それ」
「お前を連れて帰らないと姉貴に殺される」
「……あー」
透の姉―――美里さんは、何故か俺を可愛がってくれている。
……弟の命を脅かすほどに。
「わかった。お前の命を救ってやろう」
「あああ、ありがとう。持つべきものは友人思いの友達だよなあ」
涙を流して感謝する透。
俺のせいで命が危ないことは黙っておこう。


「ただいまーっと」
「おじゃまします」
「姉貴は大学行ってるはずだから上がって待」
「光司くぅーん」
脱いだ靴を揃えていた俺の背中に誰かのしかかってくる。
「会いたかったよーぅ」
ぎゅむぎゅむと柔らかいものが2つ頭に当たっているが特に動揺しない。慣れた。
「姉貴……大学は?」
「そんなのより光司君の方が大事だもん。自・主・休・講☆」
「単位足りないとかぎゃあぎゃあ騒いでたのは誰だよ」
「いいのいいの。いざって時は光司君に養ってもらうから」
「俺ですか」
俺の人権はどこへ。
「ほらほら、光司君も上がって上がって。
透、光司君にお茶をお出ししなさい」
美里さんに引きずられ、リビングに座らされる。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
美里さんが相手だと何故か必要以上に敬語になる。
「最近光司君が遊びに来てくれないからおねーさんすっごく寂しかったんだよ?
もう、体が疼いちゃって」
「はあ……」
相変わらずこの人の話はどこまで本気かさっぱりわからん。
「あんまりいじめてやるなよ、姉貴。
光司にだって色々都合があんだから」
「むー、アンタにゃ関係ないでしょー。
そもそもアンタが光司君連れて来ないのが悪いのよ」
「それは大いに関係あるじゃねえか……
光司、この際だからはっきり言ってやれよ。何で来れないのか」
「えー……あー……」
こいつ、綾葉のこと言ってねえな。怖くて。
「実は、彼女ができまして」
「……彼女?She?」
「いや、その。恋人の方の」
「………………。
えええええええ!!!待って待って待って!
誰よアタシの光司君盗った泥棒猫はっ!?」
美里さんにがくがくがくと胸倉を掴んで揺すられる。透が。
「俺はいつから美里さんのものになったんですか……」
「ちょ、やめっ、姉貴、苦しっ」
「何で何で何で?アタシは遊び?浮気?2号?不倫?」
「いーから落ち着けっ!」
何とか逃れた透がスリッパで頭を引っぱたく。
「……あぅー」
とりあえず、落ち着いた美里さんに綾葉のことを一通り話す。
「むむむ……アタシの光司君に目をつけるとは、なかなかやるわね。
まあ、今まで光司君にそういう人がいなかったのがおかしいくらいよねー」
「はあ」
「そっかぁ……うん。光司君が選んだなら、アタシが言うことはないわ」
「もともと関係ないだろーが」
「うっさい、アンタは黙る。
……今度、機会があれば紹介してね?」
「あ、はい。それはもちろん」
何だかんだで美里さんにはお世話になってるからな。
「もし光司君に釣り合わないような女だったらその場で殴り飛ばしちゃうかもねー」
「さらりと怖いこと言わんで下さい」
この人ならやる。やると言ったらやる。
「大丈夫だって。アタシの光司君が選んだ女なんだから」
「どういう理屈ですかそれ……」
「んっふっふ、さぁねぇー。
あ、光司君今日はゆっくりしてってね。おねーさんが夕御飯作ってあげる」
「いいんですか?すいません」
遠慮や拒絶は無駄。美里さんの誘いは強制と同義だ。
「また張り切りすぎて台所爆破すんなよー?」
「アンタは黙ってろって言ったでしょーがっ!」
「のわぅっ!」
パカーン、とスリッパがあごにいい角度で入り、吹き飛ぶ透。


―――俺が絡むと3割増でにぎやかになる、大森家の日常は過ぎていく。