卒業、そして

以前設定練るだけで放置していたものを改変してしーずんず新章突入。
世界のどこかがリンクしているだけですけどね。
タイトルはNext Seasons。
(なお、綾葉や光司が読みたい方はコメント欄にワッフルワッフルと書き込んでください)

俺の名前は蔵前真。
そこそこの学校に通うごく普通の高校1年生だ。
と言っても今日は終業式。
来月からは2年生になるわけだ。


――ピピピピピピピピピ……
甲高い電子音に意識が浮上する。
しかし覚醒には至らず、無意識に伸びた手が音源を黙らせ、再び肉体は布団へ意識はレム睡眠へ沈んでいく。
「お・に・い・ちゃん!!」
と、耳元で叫ばれ、反射的に目が開く。
「起きた?」
「……あぁ、多分起きたんじゃないかな。おはよう、ナオ」
「はい、おはよう。ったく〜。そろそろ自分で起きてよね」
腰に手を当て、日本人離れした端整な美貌を不機嫌そうに歪めて見下ろしてくる美少女は俺の妹――蔵前那緒。
金髪と茶髪の中間ぐらいの色をした長い髪と平均身長を軽く超える長身のせいで外人だと思われることもあるとか。
まぁ、実際に外人の血も混ざってるんだけどな。
「ほら、ボーっとしないの。早く着替えてきなよ?」
「うぃ」
寝起きでとっ散らかった思考のまま、惰性で制服に着替える。
「ごめんね、那緒。私じゃどうしても起きてくれなくて」
「いいわよ、別に。謝るのは起きられないお兄ちゃんでしょ」
「……謹んでお詫び申し上げます」
肩身の狭い思いをしつつ、3人分の朝食が並んだ食卓につく。
父親は海外を飛び回っているので、これが基本だ。
「那緒は今日帰ってくるの何時ぐらいかしら」
「う〜ん、みんなで遊びにいく約束してるからちょっとわからないけど、遅くなりそうなら連絡するわ」
「真は?」
「現状では特に予定もなく、早く終わりそうならナオの卒業式でも覗いてみようかと」
「だ、ダメッ!お兄ちゃんが来るなんて恥ずかしいからやめて」
全力で否定されてしまった。
「ということなので昼には帰ってきていると思われる」
「そう。お母さんは那緒の卒業式の後に食事会があるから、お昼は自分で何とかしてね」
「うぃ、かしこまりました」
冷蔵庫覗いて……は、まぁ後でいいか。
ゆっくりしてる時間もなさそうだ。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「真、ネクタイ曲がってるわよ」
注意されたネクタイを片手で適当に直しながら鞄を引っ掴む。
「いってきまーす」
「いってきます」
軽快に家を出るナオの後にだらだらとついていく。
「じゃ、お兄ちゃん。寝ぼけて事故にあったりしないように」
「前向きに善処しよう」
「あと、卒業式来ないでね」
「……はいはい」
そこまで念を押されるとお兄ちゃん悲しいよ。
そんな感じで軽く言葉を交わして、最初の交差点で別れる。
もうナオも高校生、か。
ついこの前までお兄ちゃんお兄ちゃんって俺の後をついて歩いてた気がするのに、いつの間にか随分しっかり者になってしまった。
反面教師が優秀だったのかもな。
「おうっ」
横合いから飛び出してきた自転車をすんでの所で避ける。
ナオが鋭いのか、単に俺がボケてるだけなのか。
おそらくは後者だが、前者にしておいた方が色々無難だ。
何より、俺は妹に甘いのである。


――桜の花びらを孕んだ風に背を押されながら、心の中で卒業を祝う。