調和-そつう-

何か思いついたから書いてしまった。
何か思いついたから、で書けてしまう魔力。
約半年ぶりですが何も変わらぬこの二人。
書きやすさはお題の比じゃないです。

俺の名前は空沢光司。
そこそこの学校に通うごく普通の高校2年生だ。
梅雨前線を縫うような青空の下。
いつも通りの突飛な一言が飛び出す。


「やっぱり、結婚するなら六月だよね」
「何を受けての“やっぱり”だ、それは」
隣で弁当を広げている俺の恋人――夜舞月綾葉の脈絡のない発言に、礼儀として一応ツッコんでおく。
ジューンブライドは女の子の憧れだよ、うん」
「……六月が安定した気候のヨーロッパから輸入しただけで、
雨が好きだとかでもない限り、日本には不向きな風潮だと思うぞ」
「光司は本当に夢がないよね……」
現実的な意見のつもりだが、ロマンに生きる先輩のお気に召さないようだ。
どちらかと言えば快晴の方がいいってのは一般論だろうに。
「Juneの語源はJuno(ユノー)。結婚を守護する女神だよ。
女神様の祝福を受けたいって考えるのは自然でしょ?」
ローマ神話すら引っ張ってくる日本人らしい無節操さは嫌いじゃないけどな。
宗教に無関心な日本人としては、見た目にわかりやすい天照大神の方が好ましい」
基本的に、雨は苦手だ。
湿度が高いと不快だし、傘を差すのは面倒くさいし、
相合傘は恥ずかしいし、そもそも外へ出る気が減退する。
「そりゃあ、まあ、晴れてるに越したことはないけどさ。
思い込みでも何でも、幸せになれる要素は一つでも多い方がいいじゃない。
一生に一度のことだもん」
「そういうもんかね」
外的要因に頓着しない身としては、よくわからん世界だ。
こうして綾葉と弁当をつついているだけでも割と幸せだからな。
と、思っても口には出さない。
「そういうもんなの」
何と言うか、よくある綾葉と俺の価値観の衝突だ。
衝突と表現するほど荒いものでもないか。
ここまで考え方が違うのに、よく噛み合っていると我ながら不思議に思うことすらある。
「だから、挙式は六月ね。出来る限り晴れの日に」
「……何年後の話だ」
気が早いにも程がある。
正直なところ、俺は二ヶ月経っても未だに恋人の距離感を掴みかねているというのに。
「何年後かな。あたしは今年でもいいけど」
「……前向きに検討しよう」
「冗談だって。いつでもいいのは本気だけど、結婚って形にこだわることもないからね」
「そいつはちっと意外だな。またロマンとかがあるのかと」
「それはそれでいっぱいあるよ?
でも、光司と一緒にいられることが一番大事だもん。
結婚は特別なイベントだけど、他のイベントと優劣はつけらんない」
……ああ、なるほど。ここだ。綾葉と俺が通じ合う一点。
「ってことで、今はお弁当イベントを全力で堪能しよ」
「異議なし」
要するに、お互いベタ惚れなのだ。
性格や思考や、その他諸々の違いが気にならないほどに。
「はい、あーん」
「やらないぞ」
「ええー。けちー」


――徐々にバカップル化を自覚し始めた、六月のある晴れた日のこと。