日常-ふたり-

全体としてのタイトルが確定したらまとめないとなぅ。
っつーことで2回目。



俺の名前は空沢光司。
そこそこの学校に通うごく普通の高校2年生だ。
学年が上がって1ヶ月半。
そろそろ冬服も厳しい気温の中、俺は校庭の芝生の上に座っていた。


「……暑いな」
別に授業をサボって独り言ちている訳じゃない。
周りには俺と同じ目的であろう奴らが何人かいるし、
俺の隣には俺の可愛い恋人――夜舞月綾葉が弁当を広げている。
「文句言わないの。……はい、お箸」
「ん。いただきます」
きちんと手を合わせてから、綾葉の差し出す弁当を食べ始める。
俺と綾葉が付き合いだして1ヶ月。
ほぼ毎日弁当を作って来てくれている。
「うん、いつも通り美味い」
「当たり前でしょ。
光司に不味いお弁当食べさせるなんて、あたしのプライドが許さないもん」
「そいつは重畳」


―――プライド。
普通に受け取れば恋人として、なんだろうが。
彼女はこの単語をよく使うし、俺もその少し深い意味を知っている。


彼女の父親はちょっとした資産家で、
その娘である綾葉は甘やかされつつ、人の上に立つ者として教育された。
おかげで人よりプライドが高く、それをあまり気にしていない。
だけど、変に高慢な訳でもないし自信に見合うだけの実力も持っている。


「あれ、顔に何か付いてる?」
無意識の内に見つめていたようだ。
「……つり目」
「う、うるさいなぁ」
本人は少し気にしているらしい。
俺はいいと思うが口に出すことでもあるまい。
「そんな意地悪言う人にはお弁当作ってきてあげないよ?」
「それは困る。
この弁当を食べ慣れたせいでコンビニ弁当なんか食えないからな」
これはお世辞でも何でもない事実だ。
綾葉の作る弁当は俺の好みを熟知した上で栄養のバランスも取っているかなりレベルの高いものだ。
……これくらいじゃないとプライドが許さない、んだと。
「へっへー。よくわかってるじゃん」
「つり目は撤回しないけど」
「……むー」
喜んだりむくれたり、忙しいと言うか単純と言うか。
「ま、これからも美味しいのをよろしく」
「ふふふー、任せといて」
ちょっとワガママで。
ちょっと単純で。
きっかけはアレだったけど、今じゃすっかりこの綾葉に惚れてしまっている。
「ごちそうさまでした」
「うん、お粗末さまでした」
こうやってまったりしている、ただそれだけのことが幸せに思える。


―――春から夏へと季節が移ろうとする、そんな何でもない1日。