平静-じしん-

明日はセンター試験らしいぞ、と。
光司君の受験は書くこと無いんだろうなぅ。




俺の名前は空沢光司。
そこそこの学校に通うごく普通の高校2年生だ。
明日はついにセンター当日。
だが、2年生の俺には関係ないのでのんびりと帰宅する。


「で、こんなのんびりしてていいのか受験生」
隣を歩く俺の恋人―――夜舞月綾葉に声をかける。
「大丈夫。直前になって慌てるなんて無様なことしないように準備はばっちり」
「ならいいけど」
俺が心配することなんか何も無いのはよくわかってるんだが、
ここまで余裕だと流石に色々言いたくもなる。
「こういう時こそいつも通り振る舞うのが大事なんだよ」
「いつも通り、ね」
2人で1つのマフラー(作:綾葉)を巻き、
俺のポケットの中で手を繋ぎ、
普通より少し遅いくらいのペースで歩く。
……まあ、いつも通りではある。
「光司だって、緊張でガチガチになったあたしなんて見たくないでしょ?」
「見たくないっつーか、想像できないな」
綾葉の自信が揺らぐようなことがあれば一大事だと思う。
「光司が緊張するのも想像しにくいけどね」
「俺の場合は真剣味が足りないだけだって」
「光司って手の抜き方を知ってるよね。
何だかんだ言いながらやるべき部分はきっちりやるし」
「それは俺の生き方と言うか何と言うか。
後々のことを考えた上で一番楽な方法を選んでるだけだよ」
必要最低限のラインを読むのは昔から得意だ。
「その割には2学期の成績よかったじゃん」
「あれは……ちょっとした心境の変化が」
綾葉に釣り合うように頑張ってみた。
なんて言える訳が無い。
「光司にはあたしと同じ大学来てもらうんだから、あと1年ちゃんと頑張るんだよ?」
「綾葉の合格が先だろ。
落ちるなんて万に一つも無いだろうけど」
「ん〜。じゃあ、あたしが頑張れるおまじない」
そう言って、目を閉じて少し背伸びをする。
いつものおねだりだ。
「……ったく、しょうがねぇな」
空いている方の手で肩を抱き寄せ、唇を重ねる。
「へっへー。これで怖いもんなしだね」
「はいはい、適当に頑張れよ。無理はしないように」
「わかってるってー」


―――綾葉が俺の予想を遥かに上回る結果を出すことになる、その前日。