Fighting Doll "Before Guardian"プロローグ

これは、名も無き“彼”が守護者へと成長する戦いを描いたあいとゆうきの物語である。

『おらおら、かくれんぼやってんじゃねぇンだぞ!』
建造物の崩れる音とともに鋭く飛んでくる声。
その声を聞き流し、倒壊したビルの陰に身を潜めて汗ばむトリガーを握り直す。
敵は1機。友軍は残存ゼロ。
機体はどちらも同じ、DST−02ムーンライト。
ただし、向こうは無傷。
俺の機体は、致命傷ではないものの少なくない装甲が剥がされている。
『そこか?』
苛立ったような声。轟音。振動。
2つ隣のビルが崩落する。
―――破甲大口径ライフル“砕牙”。
その莫大な運動エネルギーの前じゃ、今隠れているビルの壁なんか紙みたいなもんだ。
このまま立ち止まっていれば、貫かれるのは時間の問題。
とは言え、のこのこ出て行けば返り討ちが関の山。
もちろん退くことなどできるはずもない。
まさに八方塞がり。
手元にあるのは、残弾ほぼゼロのマシンガンにヒートナイフが一振り。
あとは閃光弾が2発。
ま、どうせ結果は見えてんだからせめて一矢報いてやろうじゃないか。
「すぅ、ふぅ」
目を閉じて一呼吸。
・・・GO!
目を見開き、ビルの壁から飛び出す。
2区画先。既に瓦礫の山となったビルの谷間に目標を視認。
『へっ。かくれんぼは終わりか!?』
予想通り、右手にはバカみたいにでかいライフル。
左手には取り回しの効くアサルトライフル
その2つの銃口が俺に向く直前。
「ふっ!」
低い弾道で閃光弾を投擲。同時に、もう1つの閃光弾のトリガーを押し込む。
『今更、そんなオモチャで!』
正確な射撃で打ち抜かれる。不発。
間髪いれずに2発目を投擲。それを追って跳躍。
『小賢しい!』
撃ち抜かれる寸前、空中で閃光弾が炸裂する。
『くっ!?この程度ッ!!』
「うおおおっ!」
真っ白に染まる視界の中、赤熱するナイフを振りかざして空中から迫る。
・・・いける、か?
自由落下の一瞬に抱いた淡い希望は、漆黒の銃口によって打ち砕かれる。
戻った視界の中でひどく鮮明にモニタに映る鋼の顎は真っ直ぐにコクピットを狙い澄まし、
巨大な質量を超音速で吐き出す。
『死ねッ!!』
轟音と死刑宣告を聞きつつ、コクピットごと機体の中心をずたずたに引き裂かれて、
・・・俺は、死んだ。