思慕-となり-

内容が薄いのはいつも通り。

俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学一年生だ。
2月14日、バレンタインデー。
例によって例の如く夜舞月家。


「はい、あーん」
「あー……ん。んむ」
綾葉の差し出した手作りのチョコレートケーキを口に入れる。
実際には小難しい横文字の名前らしいが、一度聞いただけではわからないので気にしない。
「どお?」
「相変わらずうまいな」
「へっへー、当たり前だよ。おいしくなきゃ光司に食べさせらんないもん」
「うまいんだ、が……」
「え、何かまずいとこあった?好みじゃない?」
「いや、うまいとしか表現できない語彙の貧弱さが悲しい」
もう少し気の効いたことは言いたいよなあ。
「そんなこと気にしなくていーの。光司が喜んでくれれば何でもいいんだから、ね?」
「左様で」
「んー。うまうま」
さて、これでまたお返しのことを1ヶ月悩むことになった。
手作りに対するお返しって難しいんだよな。
原価の3倍返しじゃろくな値段にならないし。
そもそも金をかければいいってもんじゃないし。
本人に何が欲しいか聞いても
『こーじが一緒にいてくれればそれでいいんだってー』
……だし。
「どったの、光司?」
「ああ、受動的すぎる自身の愛情表現について思索を」
「……簡単に言うと?」
「来月どうすっかなー、と」
「あ、ねえねえ。1個リクエストしていい?」
「むしろしてくれるとありがたい」
珍しいな。綾葉の方から言ってくるなんて。
「あのね、ぬいぐるみが欲しい」
「そんなんでいいのか」
「うん。光司からもらいたいの」
「おっけ。どんなのがお好みで?」
「それはほら、当日のデートで一緒に見よ。
『光司からぬいぐるみもらった記念』も買わなきゃだし」
「結局そうなるのか……」
「むー。あたしには大事なことなの」
「わかってるよ」


―――自分の家より夜舞月家にいる時間が長くなってきた、そんな1日。