不変-しぜん-

今日は出かけるんで今の内にしーずんずも。
もはやコメントのしようもない。

俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学一年生だ。
3月14日、大学は長い春休みの真っ最中。
当然の如く、俺は綾葉とデート中。


「これは?」
「……う〜ん。ウサギか〜」
「嫌ならはっきり言えよ?」
「光司からもらえるなら嫌な物なんかないんだけどさ。
初めてなんだからじっくり選びたいじゃん?」
いわゆるファンシーショップでぬいぐるみを物色中。
ホワイトデーということで綾葉へのプレゼントになるわけだ。
「じゃあ、どんなのがいいか先に言ってくれ」
「それはダメ。光司が選んだって事実が大事なの」
「気持ちはわからんでもないが……」
このままだと日が暮れかねない。
綾葉が買い物で迷う姿は非常に珍しいから、ちょっと面白いのは内緒。
「これなんかどうだ?」
次に手に取ってみたのは、カジュアルな服を着た2足歩行のネコ。
「目の辺りなんか綾葉に似てないか?」
「む〜。つり目禁止〜」
「冗談だって。綾葉の目はもっと大きいもんな」
からかうように言いながら棚に戻そうとすると、綾葉が袖をつまんでくる。
「どした?」
「そのネコにする」
「……まあ、いいけど」
決定したのなら文句は挟むまい。値札を見ても充分に許容範囲。
「で、綾葉も買うんだろ?」
「うん。あたしは、これ」
綾葉が取り上げたのは、やっぱりネコ。
2足歩行で同じシリーズらしい、タキシードを着たネコ。
「光司っぽくない?」
「……どこが?」
綾葉の中で俺はこれなのか。
「目の辺りとか」
「俺はそんなに凛々しくないぞ」
「いいの。そっちがあたしに似てるなら、光司に似てるのが隣にいた方がいいでしょ」
「いや、俺に似てないとしか主張してないけど」
買うなとは一言も言ってない。
「んじゃ、買ってくるか」
「ダーメ。こっちはあたしが買うの。
両方光司からのプレゼントじゃ意味ないんだよ?」
「左様で」
綾葉の行動の理由をいちいち気にしていたらキリがない。
似ているところもあるとは言え、俺と綾葉では感性が違いすぎる。
綾葉が何を考えてるかはわかっても、何故かなんてわかるわけがない。
「へっへー」
「……何だよ」
「こーじ、大好きっ」
ぎゅうっと飛ぶように抱きついてくる。
こういう突飛な行動も俺にはわからんことの1つだな。
抱きついてくること自体はさほど珍しくないが、ここに至る思考の変遷は全く読めない。
……何を冷静に分析してるんだか。
いやまあ、努めて抑え込まないと密着してる部分が気になるだけだが。
「こーうーじー?反応薄いよー?」
「人前でこういうことしない程度の自制心はあるつもりだ」
綾葉にとっちゃ自制することじゃないんだろうけど。
「むー。いつもだったら『俺も大好きだぜ、綾葉』とか言ってさー」
「……俺がいつそんなこと言ったよ」
そういう意味の言葉は言ったこともあるが、そういう台詞は吐く気も起きん。
「じゃあ、今言って?」
少し身体を離し、絶妙な角度で首を傾げて上目遣い。
何年経ってもこの“お願い”には抗えないわけで。
「……ったく、しょうがねぇなぁ。
……俺も大好きだぜ、綾葉」
「きゃー!光司かっこいー!!」
「店の中ではしゃぐなよ……」
あー、駄目だ。顔が熱い。
こういうのに慣れないのも、何年経っても同じ、か。
綾葉といるのも、何年経っても同じだろうな。
多分、それが俺達にとって一番自然だから。


―――変わらぬ何かを実感した、いつも通りの1日。