単調-へいわ-

で、こんな時間になってしまった原因はこいつら。
思いついたので書いてました。速い。
ただ、ちょっとキャラが違うような気もしないでもない。
時間とともに変化していってるんだなぁと思っていただけると幸い。

俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学二年生だ。
2月14日、バレンタインデー。
いつの間にか、毎年楽しみな日になってしまっている。


「お待たせー」
無表情な無数のぬいぐるみの視線に晒されているところへ、エプロンを着けた俺の恋人――夜舞月綾葉がトレイを抱えて戻ってくる。
「何でエプロンだよ」
「へっへー。新妻気分?」
「左様で」
無邪気に笑う綾葉に、俺にプレッシャーをかける意図はないだろうから俺は気にしない。
「っとと、そんなこと言ってる場合じゃなかった。食べて食べて」
綾葉が下ろしたトレイに載っていたのは、ケーキとコーヒー。
「今年はチョコレートケーキに挑戦してみましたー。どうぞ、召し上がれ」
「ん。いただきます」
もはや売り物だと言われても信じるレベルで丁寧に形成されたその塊にフォークを入れる。
いつでもこれで稼いでいけそうだよなあ、などと考えながら口に入れると、舌の上で冷たい甘さが溶けていく。
「……美味い」
前言撤回。そんじょそこらの売り物と比べたら失礼だ。綾葉に。
「うんうん。これさ、すぐ溶けちゃうから美味しいのは今この時だけなんだよね。
一瞬の儚さ、ってやつかな」
「また大げさな」
いちいち表現が詩的だ。
しかし、なるほど。ケーキだけどアイスに近いということか。
料理には詳しくないが、素人が趣味でできる範囲だとは思えん。
「綾葉を嫁に貰う男は幸せ者だな」
「……遠回しなプロポーズ?」
「話が飛びすぎだ」
遠回しに惚気てみただけだ。
「むぅ、光司が冷たい」
「……あーん」
ぶんむくれる綾葉にフォークを差し出してみる。
「あーんっ。うまうま」
簡単だ。
「って、ダメダメ!光司のために作ったんだから!
はい、お返し。あーん」
「あー……ん」
この程度で照れていた純真だった頃をふと思い出しつつ、綾葉の差し出したケーキに食いつく。
「来年はどんなのがいいかな」
「……鬼が大爆笑だな」
「だいじょぶだよ、節分に追い払ったばっかだから」
そういう問題なのか?
「ま、綾葉の腕は信じてるから何でもいいよ」
「何でもいいが一番困るんだってー」
と言いながら、困っているようには見えない楽しげなつり目。
綾葉が幸せそうで何よりだ。
「光司も、ホワイトデーにお菓子手作りしてみる?好きな人の喜ぶ顔を想像しながら、っていうのは楽しいよ」
「考えとく」
普段の綾葉を見ていれば楽しそうなのはわかるが、料理らしい料理なんかやったことがない。
こんなプロ級のケーキのお返しに見合う出来など望むべくもない。
しかし。
「やるんならあたしが教えたげるね。光司の手作り、楽しみだなあ」
すでにやる気の綾葉の期待を裏切ることもできない。
多少失敗しても、俺の手作りなら喜んでくれる、か。やってみるしかあるまい。
「ったく、しょうがねぇなぁ」
「あ、光司がやる気になった」
その気になれば何でもできる、とはよく言われる。
じゃあその気になってやろうじゃないか。
「そういえばまだ言ってなかったな。ケーキ美味かったよ、ありがとう」
「へっへー。いいってことよ」


―――相変わらず地味な盛り上がりしかない、単調な日常のひとコマ。