『守りたいもの』

次のお題がこないので前のを消化。
テーマが曖昧すぎて苦労しました。
もはやテーマに沿ってるかどうかも自信がない。
色んなシチュでラブイチャを書こうというコンセプトのはずが、
これまで一様に満足できていない現状は何とかせねば。

「――で、どうするの?」


安っぽい酒場の喧騒の中、安っぽい酒を酌み交わす男女が一組。


「どうするっても、なぁ」


紺碧のチェインメイルに身を包み、同色の剣と盾を椅子の脇に立てかけた男。


「ちょっと、急すぎるわよね」


真紅のライトアーマーを動きやすく着崩した女。
二人は同じパーティで傭兵のような仕事をしながら腕を磨いている。
そのパーティのリーダーが一時間ほど前に発した言葉が、今の二人を悩ませている。


『次のヤマはとんでもなくデカい。
ハイリスクハイリターンはウチの信条だけど、今回は特に莫大なリスクと莫大なリターンが控えてる』


仕事に関しては決して誇張をしないリーダーの珍しい言い様に、
メンバー全員が何かを感じて口を挟むことができなかった。


『参加を強制はしない。と言うか、オススメはしない。
自分の命よりも大切なものがあるのなら、この話から下りて欲しい』


脅しではなく、警告。
初めてのことに誰もが戸惑い、そして。


「命より大切なもの、か。アンタにはある?」
「まぁ、あるよ」
「え、マジで? 仕事一筋かと思ってた」
「お前なぁ……いや、わかっちゃいたけど」


意外そうな顔をする彼女を、酒のせいで軽く据わった目で見つめる。
呆れ、諦め、或いは。


「んで、何が大切なのよ」
「……仕事一筋はお前も同じ、か」


はぐらかすように、テーブルの上の彼女の手を取る。
眼差しは揺るがない。


「何?」
「ここまで鈍いとは予想外。オレの大切なものは、これ。お前だよ」
「……は?」


発せられた言葉の意味を理解するまで、きっかり三秒。


「そ、んな、えっ」
「だから、今回の話には参加したくないし、参加させたくない。
もしどうしても行きたいなら、ついて行って全力でお前を守ってやる」
「いや、だから、その……待って。こっちの話も聞いて」


アワアワと言葉にならない声を漏らしていたかと思いきや、一転、覚悟を決めた目になる。
両手を、強く握り返す。


「アタシはさ。どうでもいい奴をパートナーにするような女じゃないのよ。
……そういうこと」
「……どういうこと?」
「鈍いのはアンタも同じじゃない、バカ。
アタシの一番はアンタだって言ってんの」
「……そうか。そう、か」


色気のない場所で。色気のない姿で。
周囲の喧騒に紛れて展開するラブシーン。


「――で、どうするの?」
「どうするっても、なぁ」
「アタシは……うん。アンタがいればそれでいいよ」
「なら、聞くなよ。オレがどうするかはもう言ったろ」
「……だね」


薄暗い照明の下で。
紺碧と真紅のシルエットが、一つに重なる。
互いが、互いを包み込むように。