『落し物を拾う』

ついに、お題初の使い回し。
時間軸的には『犬と猫』の前。出会いの話。
何かもう、クロとシロがいとおしくてたまりません。
やはり百合に生きるしかない・・・ッ。

「ふんふふん、ふんふふーん」
肩の下まで伸びる白銀の髪をなびかせて颯爽と歩く美少女。
同色の犬耳が頭頂部から凛と立ち上がり、腰ではやはり同色の太い尻尾が上機嫌に揺れている。
歩いているだけで楽しくて仕方がない、散歩大好きな彼女の前に、
「わふん?」
一枚の布が落ちている。
シンプルなデザインのハンカチ。
通行人の殆どが見て見ぬふりをする中。
落とし主にとって幸運なことに、彼女は困っている他者を放っておけない性質だった。
「ふーむ……くんかくんか」
拾い上げ、匂いを嗅ぐ。本能に従った、ごく自然な行為。
「うむ」
女性らしい、甘やかな香り。
右を見て、左を見て、匂いを頼りに再び歩き出す。
「ふーふふん、ふふんふーん」


――五分後。
白い犬の少女が、匂いの発生源に辿りつく。
肩で切り揃えられた漆黒の髪の少女。
同色の猫耳と、ゆらゆら揺れる同色の細い尻尾が後姿で確認できる。
「おーい、そこの黒猫のお嬢さん」
声をかけると、耳だけがぴくりと反応し、しかし振り返ることはない。
仕方なく、早足で追いついて、顔を覗き込むように再び声をかける。
「おいおい、無視しないでくれよ、まったく」
「……アタシ?何の用?」
整った顔立ちの美少女。
だが警戒心が強いらしく、鋭い目つきで突然声をかけてきた犬の少女を観察している。
「これ、お前さんのだろう?」
相手の態度など微塵も気にかけず、歩きながら丁寧に折り畳んでおいたハンカチを差し出す。
「ん……確かにアタシのだわ。これを、わざわざ?」
「なくて困っているかも知れないし、大切なものかも知れないし。いい匂いだったしな」
「嗅いだの?嗅いだのね?」
「まあ、そうしないと持ち主もわからなかったから」
「……そうね。その点は感謝しておくわ」
邪気も、下心も、欠片も感じられない犬娘の様子に、猫娘も警戒を緩める。
入れ替わりに、瞳に悪戯な光が宿る。
「アンタ、今時間ある?」
「うん。自慢じゃないが、散歩以外にすることもない」
本当に自慢にならない話だった。
「じゃあ、お礼にお昼でも奢ってあげるわ」
「これはナンパというやつだな!? 望むところだと言わせてもらおう!」
(……やっぱりやめようかしら。面倒くさそう)
誘って一秒で後悔した。
「いつもこういう手口で誰か引っ掛けてるんだな!?」
「んなわけないでしょ。可愛い娘だけよ、アンタみたいに」
「わふっ!? 可愛いだなんてそんな、照れる」
ぱたぱたと手を振り、ぶんぶか尻尾を振って感情を露にする。
その様が、また可愛いのだ。
「お前さんの方がよっぽど可愛いじゃないか」
「……クロ」
「?」
「アタシの名前。お前さん、じゃないわよ」
「ああ、うん。私はシロだ。よろしくな、クロ」
「ええ、よろしく。シロ」
――犬と猫の道が交わる時、恋物語は始まる。