『通学で見かけるあの子』

ストックの中で、そろそろ難しいゾーンに入ってきています。
テーマ自体は純愛向きなんですけど。
“見かける”という表現だと、どうしたってらぶらぶいちゃいちゃする段階じゃないです。
おかげで甘さがまったく足りていません。ぐぎぎ。

私があの子に出会ったのは――いや、あの子に気付いたのは、高校に上がって一週間経った頃のことだった。
どの車両が階段に近くて、どのくらいの時間なら狙った電車で座れるか。
幸いにも、最寄り駅が始発駅なので待ちさえすれば座れる。
通学の三十分で座れるかどうかというのがどれほど大きいか……っとと。話が逸れた。
とにかく、通学の車内で安定して座れるようになって、そして。あの子を見つけた。


第一印象は、可愛い制服。うちの高校の隣の駅の、いわゆるお嬢様学校のもの。
淡いピンクのセーラー服と赤いスカートがとても華やか。
次に感じたのは、上品な雰囲気。
資産家の御令嬢って感じじゃなく、お金持ちのお嬢さんって雰囲気の……ニュアンスが難しいな。
親しみやすい、自然で柔らかな上品さ。
そんな美少女が窓際に立っているのを見かけて、でもその日はそれだけ。
翌日も、前日と同じようなところに座っていたら、前日と同じ子が前日と同じ駅から乗ってきて、前日と同じ辺りに立っていた。
それが三日四日と続き……それ自体は、多分当たり前のことで。
こういう電車は大抵毎日同じ時間で、乗ってくる駅が変わるわけもなく、降りたい位置は同じで。
一度気になったことは、そうそう心から出て行ってはくれなくて。
無意識の内に、その姿を探してしまう。つい、その動きを目で追ってしまう。
ストーカーと呼ばれても堂々と反論できない程度に観察を続けて、二ヶ月。
進展なんて、あるわけがない。
あっちはお嬢様学校に通うお嬢様(推定)。こっちは平凡な女子高生。
なんて属性を差し引いても、そもそも私は見ず知らずの女の子に声をかけられるようなナンパ師じゃない。
だから、今日も私は目の端であの子を追う。


恋心、なんて呼べたものじゃない。
女同士だっていうこともあるし、ましてや私は、彼女のことを知らない。名前も、学年も、声すらも。
知っているのは、外見だけ。
華奢な手足と、一分の乱れもない制服と、ぼんやりと窓の外を眺める瞳と、時折ケータイを弄りながら見せる微笑。
私は、それしか知らない。
それでも、この気持ちを分類するなら、興味や親近感じゃない。
そんな悶々とした想いを乗せたまま。


――私とあの子の運命を変える、次の季節は、夏。