『夏祭りの花火』

まさかこのお題で難産になるとは。
書きやすさで言えば抜群なんですけどね。
過去に何度か書いた記憶があるせいで、かぶらない方向を目指してしまい云々。
そして妹萌えに目覚めたついでに、年下キャラにも愛の手を差し伸べてみようという実験。
個人的にはあまり成功とは言いがたいですが。どうですか。

「すまんね、フリーダムな妹で」
「あはは。まあ、私も慣れてますから」
隣を歩きながら困ったように笑う浴衣姿の少女は、文月奈々枝。
うちの妹と同じ生き物とは思えない、大人びた美少女だ。
妹の親友で、家に遊びに来ることも多く、妹と交換して欲しいと願うことしきりだ。
夏祭りに誘った親友と財布代わりの兄を、はしゃいで置き去りにするようなのが我が妹だと恥ずかしい。
「んで、本当にそれだけでいいのか」
「あ、はい。ありがとうございます」
奈々枝が持っているのは、わたあめが一つ。俺が射的で当てた何だかわからん人形が一つ。
「どうせ財布のつもりで来てるし、もっとたかってもいいんだぞ」
「いえ、そこまでお兄さんに迷惑をかけるわけには」
「……親友にも聞かせてやってくれないかね」
今日は俺におごらせる前にどっか行ったが。
「言って聞くような娘じゃないと思いますよ」
「ごもっとも」
親友だけあって、よく理解していると言わざるを得ない。


「そろそろ時間ですし、どこか座れるところを探しましょうか?」
周囲の流れを見て、奈々枝がすぐに気を回す。
「つっても、空いてるベンチもないし、適当に座るしかないだろ」
夏祭りとは言っても、普段はただの公園だ。
遊具のある区画と広場になっている区画が連結している構造で、遊具ゾーンは現在準備で立ち入り禁止。
広場の方に座れるような場所は多くない。
丘というか坂というか、外周の一辺の斜面にある階段に人の少ない場所を見繕う。
「ほれ、こんなもんしかないが」
「……」
ハンカチを広げてやると、何故か奈々枝が絶句する。
似合わないと言われても自覚はあるが、言葉を失うほどだと多少ショックだ。
「座りたまえよ」
「っ、あの、その、ありがとうございます。紳士的なんですね」
「そんな素敵な浴衣のまま座らす奴がいたら頭の調子を疑うわ」
「……素敵、ですか?」
「普段着で隣を歩いてると気後れする程度には」
「大丈夫ですよ、お兄さんも――」
――ドオン!
「わ、始まりましたね」
祭りのクライマックス……と言うにはあまり大掛かりなものではないが。
遊具側のスペースを使って、花火が打ち上げられる。
規模は小さくとも、距離が近い分の迫力はある。
――ドオン!
「綺麗ですねえ」
「んだな」
「そこは、『お前の方が綺麗だよ』って言うところじゃないんですか」
「そういう台詞は彼氏に頼みなさい」
「私は、お兄さんに言って欲しいですけどね」
「はぃ?」
唐突な要求に、思わず変な声が出る。
「実はですね。お兄さんを誘うのも、二人きりになるのも、私が頼んだんです」
それは、なんだ。その。俺の勘違いじゃなければ、それは。
「喜んでくれるんですね。そういうお兄さんだから、私は――」
――ドオン!
奈々枝の語尾が、一番大切な部分が、花火の爆音でかき消される。
「……何だって?」
「もう。こういうこと、女の子の方から言うのってすっごく勇気がいるんですよ」
いや、だって、なあ。
口の形はわかるし多少は聞き取れたし話の流れもあるし、内容は大体わかった。
わかった上で、聞き返さずにはいられない。
「だから、大好きですよ。お兄さん」
花火に照らされたその美貌に、見惚れるしかないじゃないか。