理由-とりこ-

流石は綾葉、書けてしまうもんです。
例によって例の如くオチもない。
ついでに誕生日にやる意味もない。
誕生日でもないと、まず書こうというスタートラインにも立ちませんけど。
1が並んでるなぁ、と早く気付けばもう少しネタにできたのに。ぐぎぎ。

「光司。光司はあたしのどこが好き?」
「……それはあれか。
『全部だよ』『えー、もっと具体的に』みたいなやり取りを期待されてるのか」
「あ、そういうのもいいね。でも今日は置いておこう。
何かこう、光司の口から恥ずかしい台詞を聞きたい気分」
ああ、いつかはやらされるんだな。
もちろん、綾葉が望むなら付き合うのに吝かではないが。
「恥ずかしいとわかっていて言わせるのは如何なものか」
「いいじゃん、折角の誕生日なんだから少しぐらいワガママでもさ。ね?」
それはまあ。誕生日だとか関係なくワガママには付き合わされているわけで。
ついでに綾葉といると恥ずかしいことの連続だ。
そして、綾葉の上目遣いに抵抗できたためしもない。
「「ったく、しょうがねぇなぁ」ってね?」
俺の口癖に、完璧なタイミングでかぶせてくる。
全部お見通しってわけか。やれやれ、だ。
「そうだな。全部というのもあながち外れちゃいないんだが……
いつだって前向きで、俺の手を引っ張ってくれるところとか。
常に努力を怠らないところとか。
笑顔が可愛いとかスタイルがいいとか料理が上手いとか。
細かく挙げていくとキリがないな」
意外と、具体的に思いつかないものだ。
普段の一挙手一投足の中で綾葉の魅力に気付くことは多いんだが。
「……へへっ。改めて言われると、うん、照れちゃう。
光司のことを見つめてる自信はあったけど、光司もあたしのこと見てるんだよね」
「何を当たり前のことを」
片想いって話でもあるまいし、お互いを見てるなんて当然だ。
「じゃあ、さ。あたしを好きになったきっかけって何?
ほら、あたし達の始まりはラブレターだったじゃん」
「最初は果たし状かと思ったけどな」
「むう、その話はもういいの。
でさ。初対面だったはずなのにあっさり頷いたのは何でかな、って」
「んー……?」
呼び出されて告白されて頷いて。確かに初対面にしてはあっさりしている。
当時のこともそんなにはっきり覚えちゃいないが……
「一目惚れ、になるか。
惚れたと言うか、抗えない何かを感じた……と。表現しにくいな」
綾葉に逆らえなかったのは最初から。その点に関しては何も変わっちゃいない。
「運命とか、感じちゃった?」
「かもな」
空気に流されて、考える前に身体が動いて。あの時は、それが正解だったのだろう。
その先に今があるのだから。
「ちなみに、あたしの第一印象ってどんな感じ?」
「そう、だな。凛とした美人の先輩、ってとこか」
「おおー。なかなか見る目があるね」
自分で言うな。
「付き合ってみたら大分違ってたな」
「ま、あたしも緊張してたもん。硬い喋り方にはなってたかも」
「呼び出しの文章は硬すぎて果たし状と見紛うぐらいだし」
「もー!それは言わないのー!」


――変わらぬものを確認した、いつもと変わらぬ綾葉の誕生日。