『宇宙戦艦の擬似人格-ファーストコンタクト-』

設定を詰めるのが楽しくて仕方がないお題のアレを書いてみました。
読者もお題の中だとこれを求めているはず。
何か矛盾があれば後付でどうにかするのでツッコミも大歓迎。
連載化する気はないですが、気が向いたら何かエピソード書いていこうと思います。
艦載精霊可愛い。

高度に発達した科学は、魔法と区別が付かない。
旧時代のSF作家が遺した至言である。
木を擦って火を熾す技術すらない時代にマッチがあれば、それは魔法の道具として扱われるだろう。
裏を返せばそれは、魔法だと思われている事象も科学の進歩により原理が解明される可能性があるということ。
この時代の最も顕著な例としては――


「精霊、か」
大ホール。舞踏会にも使用される広大かつ豪奢な空間。
立食形式で並ぶテーブルの間を埋めるのは、正装した軍人達。
階級章が示すのは、宇宙軍の士官であるという共通点。
特に多いのが、資料に目を通して呟きを漏らした彼のような、士官学校を出たばかりの若い少尉。
礼服を着ていても、どこか場に馴染めていない空気。経験の不足と、緊張感。
見知った顔を見つけて雑談する者。食事に没頭する者。資料を幾度も読み返す者。
浮ついた空気の中で、行動は大きく分けてこの三種。


精霊。それが配布された資料の要点。そして、場の空気を緊張させている要因。
意味合いとしては、ファンタジーのそれとほぼ同等。人の知覚できない、意思を持った存在。
現代科学により解明された性質の内、重要なのは三つ。
電気信号に似た性質を示すこと。
人間と比較にならないほど高い情報処理能力を有すること。
霊力(と便宜的に呼称されることになった未解明の力)により存在を維持していること。


「未だに実感湧かんな」
軍隊と精霊。違和感を覚える者も多い、二つの接点。
戦争が科学技術の進展に多大な影響を及ぼすのは精霊科学においても例外ではなく、
軍事利用する上で最も戦果を上げたのが精霊に兵器の電子制御を任せるという案。
もちろん、精霊の側もただ利用されているわけではなく、霊力の供給と交換する契約。
以来、戦闘艦の艦長には霊力が高く精霊と相性のよい者が就くのが慣例。
そしてこの宴が、新たに建造された宇宙戦艦の艦長を決定する場。


「全員注目!」
「きたか」
一瞬で談笑の声が消え、照明も弱くなったホール。
演壇に運び込まれる、豪奢な空間と不釣合いな物々しい機械装置。
内部の電子回路を駆け巡り、契約者を見定めんとしているのが今日の主役たる精霊。
一段と膨らむ、緊張感。
現在の階級に関係なく得られるかも知れない、艦長という高い地位。そこから発生する、名声。利権。
装置に注がれる、会場の全員の視線。
――そして吹き込む、一陣の風。


「ッ!」
テーブルクロスの端すらも靡かない現象。
人間の感覚器官で捉えられることはなく、しかしその場の誰もが襲われた感覚。
何かが身体の中を通っていった、風。
会場を一周した風が視線の中心でわだかまり、形作られるのは人型。
女性。その表情に人間味はなく、それゆえに浮かぶ人間離れした美貌。
人の目には映らぬはずの精霊が、長髪の美女として描かれる立体映像。
一挙手一投足に衆目を集める彼女の、視線の先。
「……俺?」
新人少尉の、隣の人間にすら聞き取れない呟き。
「はい」
無機質な微笑とともに、頷く精霊。
縁。運命。霊力の相性。現代科学で未だ解明されえぬファンタジックな繋がりが、彼と彼女を結びつける。
「これから、よろしくお願いいたします」


ここに新たに一つ生まれる、人間と精霊の絆。