不変-ばしょ-

全国推定4人の綾葉ファンの皆様、お待たせしました。
実に7ヶ月ぶり。
ちなみにラジオ的な何かは時間がありませんでした。
今日中に書けたら載せます。

俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学二年生だ。
本日は11月11日。
ということで例によって例の如く。


「You!And!Tea!!」
既に成人しているとは思えぬはしゃぎようを見せているのが俺の恋人、夜舞月綾葉である。
今日の恰好は長袖にロングスカートと大人しめな方向。
胸元だけはがっつり開いていて、凝視してツッコまれたのは俺の名誉のために黙っていた方がいい。
何を言ってるんだ俺は。
「意味わからんわ。つーかはしゃぎすぎ」
ユーエンティーって何だろう。
「だって、光司と遊園地って実は初めてなんだよ?」
「まあ、騒がしいとこは好きじゃないしな」
では何故ここにいるのかと言えば、綾葉の父、真樹さんからの誕生日プレゼントである。
「よーし、さくさく行くよー」
「はいはい」
綾葉にしがみつかれ、と言うか半分引きずられるように歩き出す。
「どっから回ろっか?」
「お嬢様のお好きなように」
「むー。光司はホントに主体性が足りないよ」
「今日の主役は綾葉だろ」
「こういう時は彼氏が引っ張ってくものでしょ」
「そういう男女差別はどうかと思うな。
綾葉が俺を引っ張るのが俺達らしさじゃないかね」
今までずっとそのスタイルでやってきた。
いきなり変えられるほど俺は器用じゃない。全方位対応可能な綾葉とは違う。
「……わかった。じゃ、あっち行こ!」
「どこまでもお供いたしますよ」
一瞬むくれたかと思えば、すぐに輝くような笑顔になる。
この切り替えが速いのも魅力の1つだ。


そんなこんなで、突っ走る綾葉にツッコんだりたまには一緒に楽しんだりして、気付けば観覧車の中。
楽しい時間はあっという間、ってことを改めて実感する。
使い古された表現ってのはやはりそれなりの説得力がある。
「へっへー」
「向かい合って座るのが作法じゃなかったか」
綾葉は俺の腕を抱え込み、頭を肩に乗せてきて完全にとろけている。
「いいの。あたしの居場所は光司の隣だもん」
「左様で」
臨機応変と言うか気ままと言うか。
普通のカップルっぽいことに憧れることもあれば、絶対に自分を曲げないこともある。
どっちだろうが俺は付き合ってやる訳だが。
「ねえ、光司」
「あん?」
「光司ってさ、わがままとか言わないよね」
……読まれた?いや我が侭とまでは思ってない。
「欲がないからな」
何かしたいとか何かしてほしいとか考えることが少ない。
枯れている、と表現してもいいかも知れない。
「もっと甘えたりおねだりしたりしてもいいんだよ?」
「しねえよ?」
我が侭とかいうレベルじゃなく、そこまで行くと多分俺じゃない。
「頼りにされて嬉しいのはあたしだって同じなんだからね」
言いたいことは、よくわかる。
してほしいことがあれば何でも言え、とは俺の台詞。
自分が必要とされていると直接的に感じられるのは、どんな些細なことでも嬉しいものである。
「ってもなあ……」
上目遣いで見つめてくる綾葉の瞳を見返す。
無い袖は振れない……とは少し違うが、無いものは無い。
綾葉に、してもらいたいこと、ねえ。
「わくわく」
「声に出すな」
期待のこもった、つり上がり気味の目。
見慣れてはいるが、近くで見ればいつだって美人だ。
ぼーっと綾葉の顔を眺めても何も思いつかないので、適当なことでお茶を濁しておこう。
「綾葉」
「なあんっ……!?」
空いている方の手であごを軽く持ち上げ、口付ける。
不意打ちのせいか、普段は閉じている目を丸くしている。
「……うぅ、あうあう」
ゆっくり放してやると、珍しく照れているのか、顔が赤い。
「俺の我が侭はこんなもんかな」
「こ、こんなことなら大歓迎、だよっ」
「んな照れることか?今更」
俺をまっすぐ見てこない辺りが、昔の俺みたいだ。
「だって、積極的な光司なんて反則だよぅ。
あたし誘惑法違反で罰せられちゃうよ?」
「何だその悪法」
多分、自分でも言ってることがよくわかってない。
ある意味初々しいとも言えよう。
なかなか見られないものではあるが、見ていてそれほど面白いものでもない。
「はい、吸ってー」
「……すぅ〜」
「吸ってー」
「すうぅ〜」
「吸ってー」
「ううう〜〜〜……」
「吐いてー」
「ふう〜〜〜」
「落ち着いたか?」
「うん。まだちょっと熱いけど」
ほう、と息を吐いて、両手を頬に当てる。
「こーじー」
ずいっと乗り出してくる綾葉の頭を反射的に押さえる。
「……何だよ」
「やられっぱなしは性に合わないのー!」
「だろうな」
「届け、この想い……っ!」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
――ドサッ
力を抜くと、勢い余って押し倒される。
倒れこむには狭すぎるゴンドラが揺れる。
「へっへー」
不敵に笑う綾葉の蟲惑的な表情から目が放せない。
「もう下り始めてるから早めに済ませてくれよ」
「照れない照れない」
一応話を逸らそうとするのは癖みたいなもんだ。照れてない。
「んー、ちゅ」
唇が触れ合ったのは、ほんの一瞬。
軽いキスの方が好き、らしい。
そんなマニアックな話をしたことはないが、長く付き合ってりゃわかる。
「あたしの気持ち、届いた?」
「まあ、それなりに」
適当な返事をしつつ綾葉を抱き締める。
っつーか、姿勢辛いな、これ……
「うにゃーん」
頬擦りしてくる綾葉の髪を撫でつつゴンドラの天井を見上げる。
……何でここでこんなことやってるんだろう。
「光司ー、大好きー」
「俺もだよ」
ま、いいか。

――変わるものと変わらぬもの、考えることが多い、そんな1日。