お題『入学式』

何とか書けました。
裏のお題『さくら』も盛り込みました。
ラブイチャ感の薄さは反省点。
ヒロインの性格がどう足掻いても自分の好みに偏るのはもう病気。

「――勉学に励むもよし。人脈を広げるもよし。
一生を捧げたくなるような趣味を見つけてもいいし、
他人に迷惑をかけなければ、不良と呼ばれることもいい経験になるだろう。
恋に生きるのも、部活動に全力を注ぐのも、きっと楽しいはずだ」


壇上から新入生に向かって語りかける女生徒。
先の校長の挨拶より簡潔で、校長の訓示ほど抽象的ではない。
たった二学年上だとは思えないくらいに落ち着いており、
たった二学年上であるがゆえに新入生の感覚を理解している。


生徒会長、佐倉 吹雪。
凛々しい美貌と澄んだ声を備えた彼女は、そう名乗った。


「私は一年しか共有することはできないが、
全員がこれからの三年間を後悔しないよう過ごしていくことを願っている。
以上だ」


その姿を最前列で見つめている僕は、入学式の主役である新入生の一人であり、


「続きましては、対面式を行います。
新入生代表、皆本 始くん。壇上へお願いします」
「……はい」


司会の先輩が呼んだとおり、新入生代表だ。
どうやら入試の成績がトップだったらしいのだけど、
いわゆる名門校でも進学校でもないのに成績で決めるところに少し驚いた。
そんな理由で代表に選ばれてしまったわけで、しかし何をするかは聞いていない。
『挨拶して握手して、あとは生徒会長に任せればいいよ』とは担当の教師の台詞。
投げやりなのか会長の信頼が厚いのか、とりあえず後者だと信じておきたい。


「入学おめでとう。歓迎するよ」
「ありがとうございます」


登壇すると、会長がにこやかに迎えてくれる。
握手をして思ったのは、近くで見ても美人だということと、
失礼かも知れないけれど、意外と背が低いということだ。
身長がコンプレックス――最近ようやく150cmを超えた――である僕より、さらに低い。
堂々とした態度と朗々とした口調から感じた迫力と、多少のギャップがある。


「さて、唐突だが個人的な話をしてもいいかな」
「……はい?」


初対面で、何も知らされずここに立って。
個人的な話とやらに心当たりはない。
それでも、会長の真摯な瞳から目が離せない。


「皆本くん、君に惚れた。一目惚れだ。私を恋人にして欲しい」
「え」
「「「ええええええええええっ!!?」」」
大 絶 叫。
新入生を筆頭に、出席者全員の驚愕が講堂を揺らす。
爆弾を投下した本人は、照れたような笑みを滲ませつつも泰然としている。
では、放られた側。僕は。


その瞳から目が離せなかった。
光を反射し煌く髪と、朱に染まった色白の頬と、艶やかで柔らかそうな唇から目が離せなかった。
よく通る低めの声が耳から離れなかった。
魅了。そんな二文字が脳裏を過ぎる。
『一目惚れ』。数秒前に聞いた言葉だけど、これほど今の僕にふさわしい表現もない。
戸惑うことはあっても、迷う理由はない。


「はい、喜んで」


こうして、僕は。
入学初日に生徒会長に落とされ、唇を奪われた新入生という伝説となった。
――らしい。