『闇』

ちょろちょろと書いてみました。
前回同様ラブイチャ感が薄くてぐんにょり。
しーずんずは何であんなナチュラルにバカップルを書けたんでせう。

――ブツン
「うにゃあああ!?」


静止した闇の中、少女の悲痛な叫びが響く。


「……落雷で停電って本当にあるんだな。フィクションだけだと思ってた」


続けて、どこか感心したような少年の声が漏れる。


「ななな何でそんなに落ち着いてるのよ馬鹿兄貴!」
「さっきから雷が怖い怖いと聞かされ続けてるおかげで、大分冷静にはなれた」
「ゔぅ〜……」


当てつけるようなことを言う兄を睨みつけ……ようとするが、どこを睨めばいいのかわからない。
若干涙目であることを考慮すれば、睨みつけたところで、この兄からは優しく微笑まれるだけだっただろうが。


「しかし人工の明かりがないと、見事に真っ暗になるもんだ。科学の力ってのは偉大だね」
「何をのんきに言ってるのよぉ」
「つっても、暗いだけだしなぁ」
「暗いだけ、って」


――ッドォォォン!


「きゃあああああ!!」
「お、また結構近い。参ったねこりゃ」
「〜〜っ!!!」


ぎゅっと目を瞑り、ぎゅっと兄のシャツの裾を握り締める。
感情に理屈は通用しない。
現代日本の家屋が落雷で壊れることは、まずない。
室内で感電することもない。
光と音は花火と大差ない。
頭では理解していても、虚勢を張る余裕すらない。


「この、馬鹿兄貴ぃ……」
「何で俺だよ……」


理不尽に罵倒され、それでも妹の背中を柔らかく撫でてやる。
可愛い妹に頼られて、嬉しくない兄などいないのだ。


「あー、もう寝るか?」
「……?」
「いつ復旧するかもわからないし、どうせ雷で眠れなくてこっち来たんだろ? 一緒に寝てやるよ」
「……馬鹿。馬鹿兄貴。どうしてこういう時だけ優しいのよ」
「こういう時だけしか甘えてこないからだ」


妹から兄への、朱に染まった頬を。
兄から妹への、慈しむような視線を。
闇の中で確認できなかったのは、幸か不幸か。