制服、そして

2話にしてヒロインが登場しないという暴挙。
難産すぎました。
やはり綾葉の方が圧倒的に書きやすいような。

俺の名前は蔵前真。
そこそこの学校に通うごく普通の高校1年生だ。
生活指導の飛鳥川朋子先生に呼び出しを食らってしまった。
そんな心当たりは特にない。はずだ。


「よく来たな。まあ座れ」
「はぁ、失礼します」
生徒指導室という響きに似合わぬフランクさで着席を促される。
飛鳥川先生はまだ若く、気さくに生徒と接する態度に定評はあるが、この状況ではさすがの俺も多少は緊張する。
「そう固くならんでもいい。用があるのは蔵前は蔵前でも妹の方だ」
「ナオが、何か?」
高校生になったばかりの妹――那緒の顔を思い浮かべる。
俺以上にしっかりしてるし、わざわざ兄を呼び出すほどのことがあるとは思えん。
「あの髪が地毛だっていうのはマジか?」
「マジですよ」
日本人離れした、色素の薄い髪。
色々と派手に着飾っていることも多いので染めていると思われても仕方がないが、地毛である。
俺の髪は真っ黒で、ついでに顔も似てないおかげであまり兄妹に見えないとよく言われる。
「小さい頃の写真でも持ってきましょうか」
「いや、いい。蔵前達を疑っているわけじゃない。こっちはただの確認だ」
「と、いうことは他にも用件が?」
「ああ、妹の制服のことでな」
「制服が、何か」
ナオの制服姿を思い浮かべ……むぅ。
思い出そうとしても中学の制服しか出てこない。
妹が高校生であるという事実に慣れていない俺がいる。
「私にもよくはわからないんだが、制服に何やら改造を施しているみたいじゃないか」
「そんな気はしますね」
入学式の夜に早速、『制服にもお洒落を』とかのたまいながらちくちくやっていた。
その情熱には感心する。
「うちの学校はゆるい方だし、私としてもうるさく言いたくはないんだが、そういう規則に厳しい先生もいるんだよ」
生活指導が甘いのはどうなんだろう。
「せめて1学期の内ぐらいは大人しい格好でいてくれ、とお前からも言ってほしいんだ」
「言ってはみますが……期待はしないで下さい」
蔵前家において、長男の発言力はとても弱い。
素直に俺の意見を聞き入れるナオはちょっと想像できない。
「本人を直接呼び出した方がいいのでは」
「なるべく生徒の自主性を尊重したいから、な。
強制するようなことはしたくないんだ」
「左様ですか。まぁ、了解です」
ナオのためであるならば是非もない。
妹想いの兄であるつもりだ。
あまり報われていないのは決して気にしてはいけない。
ナオが幸せなら、見返りなどいらない。
「……何をそんな決然とした目をしてるんだ。
妹と話すのが大変だったら相談に乗るぞ?」
「いえ、何でもありません」
心配されてしまった。
「そうか。他になければ話は終わりだ。わざわざ呼び出してすまなかったな」
「はい。失礼します」
飛鳥川先生に一礼し、鞄を持って退室する。
『何でお兄ちゃんにそんなこと言われなきゃなんないのよ』と予測される反応が若干悲しくはあるが、言わねばなるまい。
ナオが不良扱いされるより、俺が傷つく方がマシだ。多分な。


――前途に多少の不安が残しつつ、我が妹の高校生活は滑り出している。