はいはい起留起留

とりあえず頭だけ。
こっからの流れは大体考えてあるんで早いはず。はず。
短いし。





―――擬人化。
無機物に生命を吹き込む、人の想いが生んだ奇跡。
ここ下総ノ宮で生じたその現象は、いまだに波紋を広げている。


『WAKE UP!』


「起っきろー!」
目覚まし時計の澄んだ声が響く。
「起っきろやー!」
ジリリリリリリリリリ!
甲高い鐘の音が鳴る。
「起きろっつってんだろーがっ!!」
ゴガスッ!!
「はぐあっ!?」
腹に重い衝撃。
鈍い音と男の声が重なる。
「んー。起きたー?」
「・・・おはよう、起留」
朝から不機嫌な顔で目覚まし時計に話しかける男。
と、3人称視点で現実逃避してみてもそれは俺だ。
「ぼーっとした顔してんじゃないっつーの。
もう一発いっとく?」
こんこん、と木槌で俺の額を軽く叩いているのは、目覚まし時計型少女・起留。
いや、目覚まし時計そのものなんだけど。
「積極的に遠慮しておこう」
起留を机の上の定位置に戻してやり、手早く制服に着替える。
「むー・・・」
「・・・何だよ」
起留が俺をにらんでうなる。
「あたしが起こしてやってんだからこうやって簡単に起きるのは当然何だろーが、
何か物足りないっちゅーか」
「・・・毎朝俺を殴っておいて物足りないとほざくかお前は」
Sだ。間違いなくSだこいつ。
「単純作業とは言え、向上心を失っちゃーおしまいよ」
素振りをしながらかっこいい台詞を吐く。
台詞だけはかっこいいんだが。
「おしまいでもいいから普通に起こせ」
「つまらん男だねー」
「起こされ方に面白さを追求したくないわ」
一発殴られんのだって我慢してやってるってのに。
「しゃーないやっちゃな。
ま、明日の朝を楽しみにしとき」
「・・・はあ」
言葉を返すのも面倒なのでため息を残して部屋を出る。


こうして、俺の朝は基本的に起留の怒鳴り声から始まる。
殴られることを除けば、概ね平和だ。