『受け継がれる意志』

恐ろしい難産でしたが、どうにか不良在庫を処分。
テーマに沿ってるのかなぁ、これ。
例によってラブイチャ感が薄(略)。
何はともあれ、次のお題かもん。
毎回言ってますが、お題はなるべく具体的に。

「先輩。手、繋いでもいいですか?」
「……やめろ。恥ずかしい」
「ふふー。もう繋いじゃいました」
ああ、畜生。これが恋人同士ってやつか。
こんな、甘ったるいのはオレのガラじゃない。
ましてや、年下の女の笑顔に反論の言葉を奪われるなんて。
オレじゃ、ない。
「先輩ってたまに可愛いところありますよね。
普段はクールでかっこつけてるのに」
「ほっとけ」
この笑顔に逆らえない理由。一部に、心当たりはある。


『妹を、よろしく』


病の床で微笑む、親友の姿。
幼い頃から兄弟のように過ごしてきた、兄妹。
別に、頼まれたからこうしてよろしくしているわけじゃない。
家族よりも身近な異性に惚れてしまった、それだけだ。それだけだが。
バカなことを言い合ってきた親友の真面目な顔が頭を離れない。
それもまた、否定できない事実だ。
「どうしたんですか?しわ、寄ってますよ」
無邪気に、眉間をぐりぐりと指でほぐしてくる。
身体的接触に、躊躇がない。
ほんの十年前までは一緒に風呂に入っていた。一緒に寝ていた。
だからこそ気安い。それはわかる。わかっているが。
「……やめろっての」
こちとら、女っ気のない思春期の男子学生だ。
恋人に触れられて何も感じないでいられるわけがない。
「むむ、今日はまた一段と手強いですね。なら、えいっ」
いつも通りに適当にあしらっていると、いつも通りにスキンシップを図ってくる。
腕を組むと、すっかり育った感触が生々しい。
「どうですか?」
「……好きにしろ」
「好きにしてますよ。好きですもん」
……とりあえず。お前に言われたからじゃないが、お前に言われた通りによろしくしている。
だから安心しろよ、バカ兄貴。


♪〜♪〜♪♪〜
「あ、メール。誰からか気になります?」
「……ならねえよ」
「ふふー。残念、お兄ちゃんからでした。今日はすき焼きだから食べに来い、ですって」
「ちっ。直接オレに送ればいいのに、無駄に回りくどいことを」
「先輩が返信しないからじゃないですか。お兄ちゃん泣いてましたよ」
「勝手に泣かせとけ」
ったく。大方一緒にいるかどうかの確認も兼ねてるんだろうが……。
オレに任せたと言いながら、結局過保護なんだっての、バカ兄貴。