親愛-みじか-

何だかんだでまた今年も書いてしまった。
久々にあの人が登場です。
たまには第三者的な視点も欲しい。
割とサブキャラも動かしやすいんですよねぇ。
人数増えるとまとめにくくなるから書きやすくはないんですが。

俺の名前は空沢光司。
どこにでもいるような、ごくごく平凡な一般人である。
11月11日。
いつも通りにデートをする、いつも通りの特別な日。


「光司はどこに行きたい?」
「今日は、と言うか今日も綾葉の行きたいところでいいぞ」
「んー。今日はどうしよっかなー。
あたしは光司と一緒ならどこでもオッケーなんだけど」
「左様で」
隣を歩く俺の恋人――夜舞月綾葉とまあ飽きもせずいつものやり取り。
ただ、綾葉としては素直な気持ちを口に出しているだけであり、
行きたいところがないというようなことはないので問題はない。
「こんにちは。綾葉先輩」
「あ、瑠璃ちゃんだ。やほー」
半ば引き摺られるように歩いていると、横合いから声をかけられる。
「やほー」
「お久しぶりです。似合わないですよ、空沢先輩」
平板な声でやってみた綾葉の物真似をばっさり切ってくれたこの娘の名前は、中山瑠璃。
綾葉の親友――中山唯香さんの妹だ。
綾葉とは姉妹ともに仲が良いものの、俺とは特に接点もないので顔を合わせることは少ない。
「相変わらずお熱いようで、何よりです」
そう言う視線は、綾葉と俺の恋人繋ぎに向けられている。
熱くもない、いつものことなんだが。
世間一般ではアツアツカップルのすることらしい。
「瑠璃ちゃんは、今日は一人?」
「いえ。これから待ち合わせです」
「恋人?」
「いいえ。残念ながらそういうのはいませんので」
綾葉の直球な質問に、特に残念そうでもなく、微笑を崩さず答える。
割とモテそうなのになあ。
「割とモテそうなのにね」
……口に出してないよな?俺。
「綾葉先輩みたいな出会いがないんですよ」
「へっへー。そりゃまあね?光司は世界に一人の逸材だし?」
「二人も三人も要らないしな」
「私は欲しいですよ?空沢先輩みたいな彼氏」
「目を覚ましたまえ。綾葉の語る俺は幻想だ」
綾葉の惚気話において、基本的に12割増しぐらいで美化される。
本当の俺は半分以下だ。
「んもう。光司はすぐそういうこと言う。
光司のことは、光司よりあたしの方がよく知ってるんだから」
「否定はせんがね」
「ふふ、本当に仲がよろしいですね。羨ましいです」
うーむ。改めて近しい人に言われると、まあ、照れる。
「あげないよ?」
「と、綾葉先輩はおっしゃってますが、どうですか、二号にでも」
「一号がすごい勢いで俺を睨んでるので遠慮しとく」
冗談でもやめていただきたい。
「私も睨まれちゃってますし、そろそろ行きますね。
綾葉先輩、今日は誕生日おめでとうございます」
「あ、覚えててくれたんだ」
「毎年お祝いしてるじゃないですか。
最近は空沢先輩とデートで忙しそうなので当日じゃないですけど。
また今年もお姉ちゃんから連絡しますね」
「うん。ありがとー」
「それでは、空沢先輩も。失礼します」
「ん、またな」
ひらひらと手を振って去っていく瑠璃ちゃん。
何と言うか、よくできた妹さん、って感じだ。
別に姉が頼りないということもないんだが。
どうにも唯香さんは綾葉に振り回されている印象が強い。
「光司。浮気とか、ダメだよ?」
「俺のことは、俺より綾葉の方がよく知ってるんじゃないのか」
「だよねー」
いくら綾葉でも、俺にそんな甲斐性があるなどとは思わないだろう。
俺のことを、よく知っているから。
「へっへー。あたしも光司以外目に入らないからね」
「知ってる」
とりあえず、機嫌がさらによくなったようで何よりだ。
瑠璃ちゃんのおかげ、かもな。
「よーし、テンションフォルテッシモでいくよー」
「ご随意に」


――変わるものと変わらないものを受け容れながら、また季節は巡る。