『この戦争が終わったら、結婚するんだ』

まぁ、典型的ないわゆる死亡フラグというやつですな。
しかし、死亡フラグはへし折るものだと溝口さんから学びました。
立てるのはヒロインの攻略フラグだけでいいのです。
そしてお気に入り度高めの彼女が再登場。

科学技術の最先端たる宇宙戦艦。艦長室。
「艦長は、戦争後のビジョンなどはお持ちですか?」
静かに佇む長髪の美女と、
「んぁ?」
唸りながら報告書を書いている、この部屋の主。
「まあ、終戦のめども付いたしそういうことも考えないとなあ。
とりあえず今更転職できるとも思えんから、軍人は続けるんだろうけど」
息抜きをしろという間接的な問いかけに、あっさりと作業を放棄。
「あ、一個だけあった。結婚しようと思う」
週末に買い物に行く、ぐらいの気楽な表明。
「結婚、ですか? おめでとうございます」
「まだプロポーズもしてないから相手次第だけどな」
「お相手はどなたか、聞いてもよろしいでしょうか」
「……本国でさ。精霊を人型義体に宿らせて同棲して、“結婚”と称するのが流行ってるらしい」
質問には答えず、飛躍する話題。
「噂を耳にしたことはあります」
「っちゅーことだ。流行に疎い俺も、乗ってみたくなることはあるのだよ」
「そうですか。……幸せに、してくださいね?」
さらなる飛躍。途中経過を言語化しなくても相互理解が可能なだけの、強い絆。
「おうよ。知ってのとおりの甲斐性なしだが、よろしくな」
「ええ、全て存じ上げております」
艦載精霊としての知悉。
艦内での行動。業務態度。軍令本部の給与査定から資産構成まで、掛け値なしの全部。
その全てを包み込む、微笑。
「別の身体というのは、どういう感覚なのでしょうね」
「あー、そういやこの艦以外に乗ったことないんだっけか」
「優秀なクルーに恵まれましたので」
「乗り換え経験がないってのは珍しい部類かもな。
ま、基本的には人形だ。義手や義足みたいな生体工学を駆使した精巧な人形。
もちろん、内部構造は精霊用に最適化されてる」
「お詳しいのですね」
「未来の嫁の為だからな」
軽いウィンクに返るのは、やはり無機質な微笑。
「検索履歴では、胸部や足回りに特に興味がお有りのようですが」
「……み、未来の嫁の為だからな」
艦内とはつまり、彼女の体内と同義。よって、隠し事など不可能。
「その幸せな未来のためにも、戦争を終わらせないといけませんね」
「まったくもってそのとおり、だ」
「では、コーヒーをお入れしましたので報告書の続きをお願いします」
「ぅわあい。忘れてた現実を思い出させてくれてアリガトウ」
幸福な将来像から引き戻される現実。
心にもない感謝とともにカップを受け取り、一口すすってから吐き出す一言。
「……いつも、ありがとうな」
彼女の行動は、全て艦載精霊の仕事。
世間の常識では感謝になど値しない、取るに足らない些事。
「艦長のためですから」
「ふふん。愛してるぜ、ハニー」
「存じ上げております、ダーリン」
しかし、見る者が見ればそれは紛う事なき、愛の形。