『女神と願いと因果』

長々とやってきた、お題12個もようやくラスト。
でもこれ完全に自分の守備範囲外ですよね。
お題出した人が大好きな話ですよね。自分で書けばいいんじゃないですか。
いや、女神はこっちの担当でもいいですけど。
ということで、全力でこっちの得意分野を突っ走ります。

――ぴんぽーん
「うぇーい」
玄関のチャイムに、適当な返事をする。
インターフォンなどという文明の利器は存在しない。
――ぴんぽーん
「今出まーす」
どうやら短気な奴らしく、すぐに二発目。
――ぴんぽぴんぽぴんぴんぴんぽぽーん
「だぁっ! 今出るっつってんだから連打すんなっ!」
勢いよく扉を開ける。
「おめでとうございまーす」
――ぱちぱちぱちぱち
「……はあ?」
ここで絶句してしまった俺を誰が責められようか。
チャイムを連打された挙句、見ず知らずの美少女に拍手付きで祝われる。
完全スルーできるほどクールじゃない。わけもわからず喜べるほど無思考でもない。
「はいはい、とりあえず入れてねー」
フリーズした俺を押して、勝手に部屋に入り込む。
しかも、サンタクロースぐらいしか連想できないようなでかい袋を引きずって。
「え、あ」
「んじゃ、おーぷん・ざ・げーと!」
混乱した俺をよそに、謎の少女が玄関で袋を開封
「……お久しぶりです」
「ええーっ!?」
もう、間投詞しか出てこない。
袋から出てきたのは、この世のものとは思えぬ容貌の美女。
正確には、この世のものではない美貌、だ。
「そ……なん……こ……っ」
そんな、何で、ここに。
たったそれだけの言葉が形にならない。
「あなたの願いが受理されたので、納品に来ました。
この書類に受領印を……あ、拇印でよろしく」
少女が俺の親指に朱肉を押し付けている最中、俺の意識は彼女との別れの日に飛んでいた。
遡ること半年。
俺は、彼女と……八百万の一柱である女神とともに生きることを願った。
そう。神に対して“願った”のだ。
「最近は責任者多い上にみんな年食ってるから、決裁下りるのに時間かかっちゃって……って聞いてないね」
あの日以来、彼女の姿を見ることはなく。こちらから会いに行く方法もなく。
それはつまり、彼女から……神からしたら、俺の存在なんかどうでもいいんだと言われているようで。
でも。これは。
「人間が神を娶ろうなんてここんとこ無かったしね。
ま、円満に叶ったから盛大に挙式するなり子作りに励むなり、ご自由にどうぞ」
俺の願いが、叶った……?
「つかぬ事をお聞きしますが」
「なんじゃらほい」
「俺の願いのために、無理矢理連れて来たとかいうことは……」
伏し目がちに俯いて沈黙する彼女に、思わず嫌な想像もしてしまう。
俺の願いは、俺の我侭でしかない。
「あー、ないない。因果の糸を紡ぐ運命の女神が、自分の望まぬ結果を手繰るわけないでしょ」
「じゃあ、その」
「ほら、愛しの彼が不安がってんだから自分で言ってあげなよ」
「……この日を、待ち望んでおりました。
貴方に再びお会いし、私の心をお伝えする、この日を」
「ということで、めでたしめでたし。
神の力はほぼ失って人間仕様だから、気にしない程度に気にしてあげてね」
「神様がいなくなって大丈夫なんですか」
「その辺は人間が心配しなくても大丈夫。
一柱いなくなったぐらいで揺らぐようなもんでもないの。
日本が誇る八百万システムをなめんな、ってとこ」
ああ、何と言うか。
俺が勝手に諦めている間に、お膳立てはすべて整っていたらしい。
たった半年で忘れてしまおうとしていた自分が、恥ずかしい。
「他に質問事項がないようなら邪魔者は退散するよ。
自分の願いがこの結果を生んだんだって自覚を持つこと。
それさえクリアすれば、あとはご自由に。じゃあね」
現れた時と同様、こちらの意見など聞きもせず去っていく少女。
残された二人。片方は人じゃないのは置いといて、まあ二人。
結局あの少女が何者なのか聞いていなかったが……それよりも、今は。
「……ご自由に、だとさ」
狭い玄関で見つめ合う。
強く望んだことではあるが、改めて実現するとどうにも気恥ずかしい。
「と、とりあえず……」
「とりあえず?」
「口付けを、所望します」
安っぽい照明の下で恥らう顔に、ときめきが抑えられない。
「ちゅ……ん。不束者ですが、よろしくお願いいたします」