愛慕-こころ-

はいはい綾葉綾葉。
この辺はいつも通りのはずです。かゆい うま


俺の名前は空沢光司。
そこそこの学校に通うごく普通の高校2年生だ。
今日は2月14日。
浮つく周囲をよそに、のんびりと通学路を歩く。


「あ、光司ー!」
「綾葉?」
十字路に立って俺の名前を呼んでいるのは、俺の恋人―――夜舞月綾葉だ。
「朝会うなんて珍しいな」
『朝から光司に会うと学校行きたくなくなる』とかで登校は別にしてるんだが。
「今日は光司を待ってたの。朝一番でチョコ渡したかったから」
「あー……。待ってた?この時期この時間に受験生が?」
風邪でもひいたらどうするつもりだ。
「へっへー。はい、これ」
「ああ、ありがとう」
綾葉が鞄から取り出した包みを受け取る。
「手作りだけど、その辺の市販のよりおいしくできたと思うよ」
「だろうな」
綾葉なら誇張でも何でもないだろう。疑う余地無し。
「光司はモテそうだから結構もらうんだろうねー」
俺の上着のポケットに冷たい手を突っ込みながら呟く。
ったく、こんなんなるまで待ってるなよ……
「それは無いと思うぞ」
「えー?みんな見る目無いなあ。去年は何個もらったの?」
「去年?」
美里さんと咲良と。義理チョコをクラス全員にばら撒くクラスメイト2人。
「4だな。しかも義理確定が3だ」
「……残り1は?」
しまった。余計な情報を漏らした。
「それは、その、な。義理じゃないけど本命でもないと言うか」
「……美里さん?」
「鋭いな……」
まあ、面識があれば思い至るか。
「そっかー。美里さん以外に光司の魅力はわかんないかー」
「美里さんみたいなこと言うなよ……」
「でも、今は光司はあたしの恋人だもん。本命いくつもらっても関係ないよね」
「ま、そうだな」
極端な話、綾葉込みでゼロでも問題ない位だ。
「ね、光司」
「ん?」
「大好き、だよ」
「……はいはい」
「あーもう、このままデートしよっか?」
「それは流石に止めとけ」
「じょーだんだって」


―――綾葉の変わらぬ愛を感じた、少しだけ特別な日。