運命-きせき-

難産。しーずんず初の超難産。
途中でぴたりと進まなくなることが3度。
4つ目のネタでようやく書ききりました。

俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学一年生だ。
新年度になったばかりの4月9日。
釈迦と1日違いの俺の誕生日。


「光司、誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとう」
挨拶もそこそこに、俺の恋人――夜舞月綾葉から祝いの言葉。そして、
「あたしの方こそ、ありがとう」
「……何が?」
感謝の言葉。意味わからんわ。
「光司が生まれてきてくれたから。ね」
「いや、『ね』って言われても。それは俺あてでいいのか」
相変わらず綾葉の思考にはついていけない。
「じゃあ誰に感謝すればいいのさー」
「そもそも感謝することなのかね」
「だって、光司と出会えた奇跡の最初の一歩だよ?」
「奇跡、ねぇ……」
何でいちいち大げさなんだろう。
流されるままに生きてる俺にはわからない世界だ。
人生なんてままならない偶然の連続だよな。
「光司はどうしてそう、淡白なのかな」
「俺は後出しの運命論者だからな。
綾葉とも出会うべくして出会った、それだけだよ」
「むぅ。そういう考え方もあるけどさ」
俺からすれば細かいことにこだわる綾葉の姿勢の方が疑問だ。
「俺たちの歩く道が重なって、今ここにこうしている。
その事実だけで充分幸せなことだろ。
奇跡か運命かなんて関係ないって」
「うにゃ、光司が詩人だ」
「む」
柄にもなく語っちまったぜ。
「でも……うん、そだね。
過去は過去、今は今、だよね」
ぎゅ、と腕を強く抱え込んでくる。
刹那主義、と言うと語弊があるか。
過去がなければ現在もないが、一番大切なのは今この瞬間。
綾葉の隣にいられる、この現実。
「つーことで、今を楽しむことにしようか」
「うんっ」
しがみついたままの綾葉を引きずるように歩く。


―――過去も、今も。そして未来も変わらずいられることを祈る、春風の中。