行って帰ってくると書く気なくなるんで早めに。
すでに行く気がない件はツッコミ不可。
俺の名前は空沢光司。
それなりに名の知れた大学に通う、大学一年生だ。
大晦日。
夜舞月家にお邪魔して、年越しそばをすする。
「すみません。こんな日まで泊まりに来てしまって」
「ちっちっち。光司君はもう家族の一員なんだから、遠慮することなど何もないのさ」
「……ありがとうございます」
まあ、俺のために一部屋用意するくらいだもんな。本気で。
「でも、いいのかしら?御両親と過ごさなくて」
「いいんですよ、あんな夫婦は」
現在、俺の家には誰もいない。
共働きである以上よくあることだが、もちろん年末年始に仕事はない。
あろうことか1人息子を置いて海外旅行に行くという暴挙に出た。
夜舞月家の息子になった方が幸せだと思う。本気で。
「毎年光司と年越ししてるし、今更気にすることじゃないかなー」
「うん、それもそうだね。そういえば、初詣には行かないのかい?」
「今年は……来年かな?とにかく、ゆっくり行こうって話してて」
「この歳になると混雑はつらいですから」
「もう。光司には若さが足りないよ」
「綾葉が元気すぎるからバランス取ってるんだよ」
「はっはっは。相変わらず見せ付けてくれるじゃないか」
……ご両親に優しい目をされましたよ?
どこまでも息子扱いと言うか婿扱いと言うか。
「今年も晴れ着は着るのよね?」
「うん、そのつもり」
「光司君も僕のでよければ何か貸そうか?」
「いや、俺はいいです。地味なのが隣にいた方が引き立ちますし」
楽な格好が俺には一番。めかしこむのは柄じゃない。
「謙虚だね、光司君は」
「面倒なだけですよ」
「こーじー。素材がいいのにもったいないー」
「姫様はご立腹のようだけど?」
「いちいちワガママに付き合うほどの忠臣ではないので」
「それじゃ、いつもワガママ言ってるみたいじゃんかー」
綾葉の反論に、真樹さんと無言でうなずき合う。
「と、父様に光司の意地悪がうつった!」
「感染するのかよ」
「あたしの好意を無視した光司は、罰としてきちんとした格好で初詣に行くこと」
「拒否権は?」
「ないよ」
……ったく、しょうがねぇな。やっぱりワガママじゃないか。
「すみません、真樹さん」
「おっけー。光司君にぴったりなの貸してあげるよ」
弱いなあ、俺。
「あ、そだ。光司、ちょっと来て」
「ん?」
何か思い出したような綾葉に続いて階段を上る。
綾葉の部屋の前でくるりと振り返り、
「今年最後のキス、しよ?」
「それか……」
目を閉じて、いつものおねだり。
1歩距離を詰めて抱き寄せ、唇を重ねる。
「ん……へっへー」
―――綾葉の笑顔に始まり、綾葉の笑顔に終わる俺の1年。